宇宙ガンマ線精密観測実験GRAINE
私たちは、最新の原子核乾板技術を利用したエマルション望遠鏡を開発する事で、
次世代のガンマ線天文学を刷新するGRAINE計画
(Gamma-
Ray
Astro-
Imager with
Nuclear
Emulsion)
を推進しています。
◆CONTENTS◆
1. 宇宙ガンマ線の観測
2. 最新の原子核乾板
3. 次世代ガンマ線観測装置エマルション望遠鏡
4. GRAINE計画
1. 宇宙ガンマ線の観測
観測する波長によって変わる宇宙の姿
私たちが夜空を見上げた時に目に入る無数の星々は、自ら光を放って輝いてる恒星です。例えば太陽は、私たちにとってもっともなじみのある恒星のひとつです。
星が発している光は、私たちの目でみることの出来る「可視光」に限ったことではなく、
とても広い波長域に渡って輝いています。異なる波長で観測すると、星は全く違った姿を見せ、新しい性質も明らかになります。様々な波長域での宇宙の観測は、多種多様な宇宙をより詳しく理解するために非常に重要なのです。
X線・ガンマ線で輝く高エネルギー天体
可視光よりも波長が短い(エネルギーが高い)電磁波であるX線やガンマ線を放射する星も存在します。
それらは、高エネルギー天体と呼ばれます。
1960年代以降、数々の衛星実験や気球実験によって高エネルギー天体は観測され、
その性質の理解が進められてきました。特に日本のX線観測は常に世界をリードし、X線天文学の発展に大きく貢献しています。一方で、ガンマ線領域での観測は、X線に比べ随分と遅れました。ガンマ線の精密な測定技術は非常に難しく、90年代においてこれまで発見されてきたX線天体の数が10000個以上だったのに対し、ガンマ線天体は260個でした。
フェルミ衛星によって切り開かれたガンマ線天文学
その転機が訪れたのが2008年。NASAを中心とする国際プロジェクトとしてフェルミ宇宙望遠鏡衛星(フェルミ衛星)が打ち上げられました。フェルミ衛星は、5年間の観測で3000以上のガンマ線を放射する天体を発見し、宇宙ガンマ線の観測をガンマ線天文学と呼べるまでに発展させました。今はまさに、ガンマ線で観る宇宙の姿が少しずつ明らかになりつつある時代なのです。
ガンマ線天文学が直面した課題
フェルミ衛星によって多くの成果が挙げられ大きく進歩したガンマ線観測ですが、一方でいくつかの解決すべき課題も浮上しています。
♠ 未同定天体
フェルミ衛星はこれまでに多くのガンマ線天体を発見しましたが、そのうちの約30%は他の波長では見つかっていない"未同定天体"に分類されています。未同定天体の多くは宇宙の中で天体由来ではないガンマ線を多く放射している領域に分布しています。このため未同定天体が本当にガンマ線だけを放射する新天体なのか、偽物なのかを判断するにはもっと性能のよい望遠鏡で宇宙を観測することが重要です。
♠ 天体毎の詳細観測
フェルミ衛星のガンマ線に対する角度分解能(望遠鏡の性能)は人間の視力に直すと0.2ほどになります。視力0.2の人が夜空を眺めても星は見えませんね?フェルミ衛星がみた宇宙の様子もぼや〜っとにじんでいて、ひとつひとつの天体の細かな構造を知ることはできません。しかし、他の波長での観測結果を比較しようと思うと、細かな構造を捉える必要が出てきます。
♠ 偏光観測
フェルミ衛星の課題の一つに"ガンマ線の偏光観測"があります。一般的に光というと偏光していない光をさします。光は電場と磁場の変化のよって伝えられる波の一種ですが、通常電場の方向は光毎に揃っていません。これが偏光していない光です。しかし、稀に電場の方向が揃った光もあり、偏光していると言います。偏光している光がでてくる場所では強い磁場が存在していることが期待されます。偏光してない光をいくら観測しても磁場について知ることはできないので、偏光している光を観測することは世界中から期待されている課題の一つになっています。
2. 最新の原子核乾板
現代に蘇った原子核乾板
原子核乾板は電気を帯びた粒子の通り道(飛跡)を世界で最も細かく観測できる検出器です。原子核乾板は古来から利用されてきて、宇宙線や素粒子の分野で多くの科学的成果を挙げてきました。しかし、昔の写真技術を応用した原子核乾板は光に当ててしまうと感光して使えなくなってしまいます。また、電気を帯びた粒子の飛跡は顕微鏡で観察していて、解析には大変な労力を伴います。このような運用上・解析上の困難さのために原子核乾板は次第にエレクトロニクス検出器に遅れを取るようになりました。
このように過去の検出器になるかと思われた原子核乾板ですが、名古屋大学を中心としたグループは原子核乾板のもつ圧倒的な飛跡の測定精度を生かすために数々の研究開発を進めてきました。特に原子核乾板に記録された飛跡を読み出す装置が開発・改良され、解析にかかるコストを大幅に削減できるようになりました。これによって現在、Cern-Gran Sasso間で行われているOPERA実験のような大規模実験にも投入されるようになり、原子核乾板は現代に蘇ることに成功しました。
原子核乾板でガンマ線を観測する
電気を帯びていないガンマ線自体は原子核乾板に飛跡を残しません。しかし、ガンマ線は物質と反応すると電子と陽電子(プラスの電気をもつ電子をようなもの)に変化します。この電子対の始まりを原子核乾板で精密に捉えることによってガンマ線の方向を精度よく測定することが可能となります。これによってガンマ線天文学が直面している課題も解決できるのでは!と期待されています。
3. 次世代ガンマ線観測装置エマルション望遠鏡
私たちの研究グループでは、原子核乾板からなるエマルション望遠鏡を開発し、宇宙ガンマ線の精密観測・偏光観測を目指す気球実験を進めています。電気をもつ粒子の飛跡を高い精度で記録する特徴を活用することでエマルション望遠鏡はフェルミ衛星の100倍近くの性能を持つことが期待されます。
エマルション望遠鏡はコンバータ、タイムスタンパ、カロリーメータ、姿勢モニタから構成されます。
♣コンバータ
コンバータは原子核乾板を100枚程度積み重ねた構造をしてます。コンバータに入射したガンマ線はコンバータ内で対生成反応を起こし、それによって生じた電子対がコンバータ内に飛跡を残します。私たちはコンバータ内の途中の1点から始まる2本の飛跡をヒントにガンマ線を探索し、コンバータに対してガンマ線がどの方向からやってきたのかを決定します。
♣タイムスタンパ(多段シフター)
原子核乾板は写真フィルムなので、コンバータ内で分かるのはガンマ線の角度だけでやってきた時間はわかりません。しかし、ガンマ線が宇宙のどこからやってきたかを決めるためにはガンマ線がやってきた時間を決定する必要があります。そこで私たちが開発したのが"多段シフター"というタイムスタンプ機構です。多段シフターはGRAINEグループ博士研究員の高橋覚によって提案され、同じく博士研究員の六條宏紀によって実用化された全く新しい機構です。複数のステージをアナログ時計の針のように異なる周期で動かして時刻毎にバラバラなステージの位置関係を作ります。解析の際にはステージに貼付けた原子核乾板に残った飛跡の情報から飛跡記録時のステージの位置関係を再構成し時間を決定します。電力や検出器の重量などに制限のある気球実験を行う私たちにとって、"低消費電力・軽量・コンパクト・シンプル・Dead time free"など最適な特性を併せ持つタイムスタンプ手法です。
♣カロリーメータ
編集中
♣姿勢モニタ(スターカメラ)
コンバータではガンマ線のコンバータに対する角度が決まります。しかし、コンバータを始めとするエマルション望遠鏡全体は気球から吊り下げられており、回転や振り子運動によって宇宙に対する向きが時間とともに変わってしまいます。そこでエマルション望遠鏡が宇宙に対してどちらを向いているかを決める役割を担うのが、姿勢モニタです。姿勢モニタは赤外に感度を持つCCDカメラと青色をシャットアウトするフィルターなどからなります。姿勢モニタは星空を観測し、見えている星の組み合わせから宇宙のどちらを向いているかを時間毎に決定します。姿勢モニタが決定した姿勢情報とタイムスタンパが決定した時間情報を合わせることで、コンバータに入射したガンマ線が宇宙のどこからやってきたのかを決定することが可能となります。
4. GRAINE計画
宇宙からのガンマ線は地球の周りの大気の影響によって地上には届きません。そのため私たちのグループではエマルション望遠鏡を科学観測用の大気球に搭載して地上37~40kmまで打ち上げます。この高度まで上がると大気の影響が小さくなって宇宙からのガンマ線を観測することができるようになるのです。日本ではISAS/JAXAの大気球実験室協力のもと、北海道大樹町を拠点として大気球実験が行われます。私たちのグループも1回目の気球実験は北海道で行われました。
GRAINEが目指すサイエンス
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北海道大樹町での原理実証試験
写真はココ。
オーストラリア, アリススプリングスでの性能実証試験 (going on!!)